在来線高速化考察
 湖西・北陸本線、中央東線、予讃線を初めとする設計速度130km/h超の特急車輌が 使用されている線区を軸にして、最高速度向上を行った場合にどの程度所要時間が短縮されるのかを、特認 若しくは制動距離制限規定そのものの緩和を前提として簡単に計算してみました。
 なお、長崎本線や羽越本線、函館本線札幌以北といったGCT考察で言及した線区については重複となるので 省きます。

各線区別所要時分変化等
 北陸西線  中央東線  中央西線  常磐線  総武・成田線
 予讃線  日豊本線末端部  
総括



●各線区別所要時分変化等
 GCT考察同様、主要時分計算は簡便な計算で済ませておいた。あくまで制限箇所を拾い上げてそれを元に概算値を 導いたに過ぎないので、厳密に運転曲線を引くと更に数%の所要時分減が可能かも知れないがその点は御容赦 願いたい。
 (黒字:標準時分、赤字:最速時分)

○北陸西線
個別変更点 区間別変化(括弧内キロ程は新幹線経由) 備考
大阪
〜福井
大阪
〜金沢
大阪
〜富山(※1)
190.9km 267.6km 327.0km
(326.1km)
現行681/683系 1:49(105.1km/h)
1:44(110.1km/h)
2:36(102.9km/h)
2:27(109.2km/h)
3:17(99.6km/h)
3:08(104.4km/h)
 
湖西線・北陸隧道内160km/h化 1:43(111.2km/h)
1:38(116.9km/h)
2:30(107.0km/h)
2:21(113.9km/h)
3:11(102.7km/h)
3:02(107.8km/h)
特認のみで可能
湖西・北陸本線内全線160km/h化
東海道本線140km/h化
1:38(116.9km/h)
1:32(124.5km/h)
2:20(114.7km/h)
2:09(124.5km/h)
2:57(110.8km/h)
2:46(118.2km/h)
線形改良なし
湖西・北陸本線内全線160km/h化
東海道本線140km/h化
北陸新幹線金沢開業
1:38(116.9km/h)
1:32(124.5km/h)
2:20(114.7km/h)
2:09(124.5km/h)
2:49(116.1km/h)
2:38(124.2km/h)
線形改良なし
金沢乗換え
湖西・北陸本線内全線160km/h化
東海道本線140km/h化
金沢以東新幹線上160km/h
1:38(116.9km/h)
1:32(124.5km/h)
2:20(114.7km/h)
2:09(124.5km/h)
2:48(116.8km/h)
2:37(125.0km/h)
線形改良なし
金沢以東3線軌(※2)
湖西・北陸本線内全線200km/h化
東海道本線140km/h化
金沢乗換え
1:30(127.3km/h)
1:23(138.0km/h)
2:11(122.6km/h)
1:54(140.8km/h)
2:40(122.6km/h)
2:23(137.2km/h)
線形改良(※3)
車輌変更(※4)
 ※1:新在乗り継ぎ時分は8分、新高岡停車で計算。
 ※2:在来線側車輌に20/25kV複電圧対応が必要。
 ※3:R1000以下の曲線に限り線形改良(新疋田のループ線及び東海道本線内を除く)。
 ※4:スーパー特急前提、785系3M2Tの歯数比を22:77まで落とした特性曲線で概算。
 因みにカント105mm・車体傾斜なしでの乗り心地限界速度(横 方向0.08G)はR800:134km/h、R1000:150km/h、R1200:165km/h。
 同車体傾斜5度ではR800:163km/h、R1000:182km/h、R1200:200km/h。

 湖西・北陸本線内全線で160km/hに引き上げてもこの程度である。現行雷鳥スジに任せる停車駅を 増やし、速達スジの停車駅を現行最速達列車程度(赤字相当)にまで削減することで漸く表定120km/h前 後、大阪〜金沢間2時間10分と大阪〜富山間2時間40分台が見えてくるので、もしこの様な速度向上を 行うのであれば併せて停車駅の見直しを行って貰いたいものである。
 なお北陸新幹線西側開業で更に1時間程度の大幅短縮が可能ではあるが、これは実現すると しても20年以上は先の事なのでまず在来線の高速化から考えるべきだろう。

 北陸新幹線東側開業(金沢開業)でそのまま在来線富山直通を継続した場合、新幹線乗換えを行った 場合、複電圧対応・3線軌として新幹線直通で運行した場合の比較も上で行っているが、所要時分差は せいぜい10分程度である。少なくとも、わざわざ複電圧対応の在来線車輌を用意するくらいなら 三セク化後の金沢〜富山間に乗り入れる方が無難だろう。初期費用もさる事 ながら、60km弱に及ぶ三線軌区間の維持費を考えれば妥当な所ではないだろうか。
 なお金沢乗換えを行うか三セク直通かでも約10分の所要時分差が生じるが、これについては 主観以上の判断基準を持ち得ないのでどちらが良いとも言いかねる。御覧になった方一人一人の 判断に委ねたい。

 200km/h向上のケースについては、非現実的と知りつつも京都〜金沢間の潜在能力を示す為に 敢えて載せてみた。停車駅を適宜抑えれば安定して2時間を切れる上、この比較では若干抑え気味の 所要時分算定を行っているのでその気になればこれ以上の数字を出せる可能性も高い。フル規格 新幹線には敵わないが、とりあえずの選択肢としてこれを示しておく。
 通過全駅に可動柵やホームへの立ち入りを制限する扉(参考:北越急行美佐島駅)といった 設備が必要になる上、このレベルの高速化が行われた前例が無いので改良費用がどれ程のものに なるかは見当も付かないが、新線建設に比べればかなりおとなしいものだろう。


○中央東線
 E351系の歯数比を変えて本来の計画速度に。
個別変更点 区間別変化
新宿
〜甲府
新宿
〜松本
八王子
〜松本
123.8km 225.1km 188.0km
現行E351系 1:27(85.4km/h)
1:23(89.5km/h)
2:37(86.0km/h)
2:26(92.5km/h)
2:07(88.8km/h)
1:56(97.2km/h)
E351系歯数比調整
新宿〜八王子間130km/h化
八王子〜松本間160km/h化
1:16(97.7km/h)
1:12(103.2km/h)
2:18(97.9km/h)
2:07(106.3km/h)
1:54(98.9km/h)
1:43(109.5km/h)
 E351系の160km/h運転を行う為の高速対応路盤強化、そして八王子以東での130km/h向上が全てで ある。これでも新宿〜松本間は2時間を切るに至らない為、おそらく小淵沢〜岡谷間での線形改良に 及ぶ以外に「新宿〜松本間1時間台」を実現させる術は無いだろう。


○中央西線
 383系の高速性能をもう少し活かして。
個別変更点 区間別変化
千種
〜中津川
名古屋
〜松本
123.8km 225.1km
現行 0:41(106.5km/h) 1:59(94.8km/h)
名古屋〜中津川間140km/h化
塩尻〜松本間140km/h化
0:39(112.0km/h) 1:56(97.3km/h)
 一部区間で10km/h向上したのみではこんな所である。速度向上には中津川〜塩尻間での曲線改良が 不可欠だが、既に線形改良以外で可能な速度向上策は取られており、新線建設以外では困難なのが 現状なのでこれ以上は困難だろう。


○常磐線
 途中までの線形は非常に良いので色々と。
個別変更点 区間別変化
上野
〜土浦
上野
〜水戸
上野
〜日立
上野
〜いわき
66.0km 117.5km 149.1km 211.6km
現行651系 0:41(96.6km/h)
0:39(101.5km/h)
1:05(108.5km/h) 1:29(100.5km/h)
1:26(104.0km/h)
2:15(94.0km/h)
2:06(100.8km/h)
北千住〜取手間130km/h化
取手〜泉間160km/h化
0:3930(100.3km/h)
0:39(101.5km/h)
1:01(115.6km/h) 1:2430(105.9km/h)
1:2130(109.8km/h)
2:09(98.4km/h)
2:00(105.8km/h)
北千住〜取手間130km/h化
取手〜泉間160km/h化
車体傾斜5度
0:37(107.0km/h) 0:5730(122.6km/h) 1:1930(112.5km/h)
1:1630(116.9km/h)
2:0130(104.5km/h)
1:5230(112.9km/h)
 まあ、所要時分短縮はほぼ妥当な所だろう。線形が非常に良いので、最高速度と 曲線通過速度を引き上げた分だけ素直に数字が付いてくる。因みに160km/hの2つに ついては681系の特性曲線を用いて算定した。
 なお、最高速度向上を泉で止めたのは以北の線形と輸送量が理由である。


○総武・成田線
個別変更点 区間別変化
東京
〜空港第2ビル
78.2km
現行 0:52(90.2km/h)
車体傾斜制御(5度) 0:47(99.8km/h)
車体傾斜制御(5度)
錦糸町〜空港第2ビル間160km/h化
0:41(114.4km/h)
 最後は681系の特性曲線で計算…にも関わらずこれである。絶対的な路線距離差は覆せないのだ。
 速度競争では成田高速鉄道アクセス線経由のスカイライナーに太刀打ちできない ので、開業以降は現状以上に広範からの集客へと注力すべきだろう。


○予讃線
 勿体無い事この上無いが…。
個別変更点 区間別変化
多度津
〜松山
岡山
〜松山
161.7km 214.4km
現行 1:57(82.9km/h)
1:51(87.4km/h)
2:47(77.0km/h)
2:40(80.4km/h)
予讃線内160km/h化 1:50(88.2km/h)
1:43(94.2km/h)
2:40(80.4km/h)
2:32(84.6km/h)
予讃線内160km/h化
停車駅抑制(※)
1:50(88.2km/h)
1:33(104.3km/h)
2:40(80.4km/h)
2:22(90.6km/h)
 ※:観音寺、新居浜、今治

 実際の所、最高速度の向上というよりは、その為の路盤強化に伴って改良されると考えられる 部分による曲線通過速度向上分が主な時短理由となる。停車頻度が停車頻度なので、影響が小さい事は この際致し方無い。最高速度向上を図らずとも3分程度しか変わらないので、改良は曲線通過速度向上 のみに絞った方が効果的だろう。
 なお停車駅を絞った場合の数字も載せてはみたが、これでも高速バスや航空を相手にするには 心許無い。岡山〜宇多津間でもある程度の所要時分増が求められる他、長期的にはある程度抜本的な 改良も必要になると思われる。


○日豊本線末端部
個別変更点 区間別変化
鹿児島中央
〜宮崎
博多
〜鹿児島中央
博多
〜宮崎(鹿児島回り)
現行 2:04(60.9km/h) 2:19(124.7km/h) 4:38(89.5km/h)
125.9km 288.9km 414.8km
鹿児島中央〜隼人間130km/h化
隼人〜都城間110km/h化
都城〜宮崎間130km/h化
車体傾斜5度
1:38(77.1km/h) 2:19(124.7km/h) 4:12(98.8km/h)
125.9km 288.9km 414.8km
在来線現行
九州新幹線全通
2:04(60.9km/h) 1:04(240.8km/h) 3:23(113.1km/h)
125.9km 256.8km 382.7km
鹿児島中央〜隼人間130km/h化
隼人〜都城間110km/h化
都城〜宮崎間130km/h化
車体傾斜5度
九州新幹線全通
1:38(77.1km/h) 1:04(240.8km/h) 2:57(129.7km/h)
125.9km 256.8km 382.7km
 ※:新在乗り継ぎ時分は15分で計算。

 色々弄ってみると、どうやら博多〜宮崎間が3時間を切れそうである。883系前提のスジなので 当面は難しいが、元々が鈍足だとはいえ在来線区間のみでも30分近い短縮になるのでそれ相応の 見返りはあるだろう。何より鹿児島〜宮崎間の高速バスの所要時分は3時間近いので、この客を 大幅に奪えるのはほぼ確実と言えよう。そもそも、博多〜宮崎間は現時点で既に鹿児島回りの方が 早く着ける有様なので、宗太郎越えを改良するくらいならこの方が現実的ではないだろうか。
 問題はこの速度向上に見合うだけの軌道強化費用、そして振り子車輌を何処から捻出するかだが…。


●総括
 この様に、各新幹線及びGCT考察で触れなかった主要都市の多くは、都合良く在来線の高速化対応で それ相応の利便性向上を図れる状況にある。基本的に線形の良さを活かした130km/h超への最高速度向上が 軸なので省令等困難な問題もあるだろうが、可能となった暁にはこの程度はできるという事を 示したかったのでこんな所で良いだろう。
 140km/hはどうやら600m条項の範囲内でも可能な様であるし、予讃線の曲線通過速度向上や日豊本線 南端部の改良は130km/hの範囲内でも十分に効果の出ることだ。前者は既に改良されたものに更に手を 加えるのでそれ相応のレベルのものを含むものの速達列車の設定と併せて行えばそれなりの効果は 出るし、後者に至っては元が元だとはいえそこそこの速度で現状比3割減と大幅な所要時分減が可能に なる。160km/h化は絵空事としても、純然たる改良工事で事足りるこの辺りはどうだろうか。

 現実に行われる可能性があるのはせいぜい2〜3ケース程度であろうが、とりあえずこんな所で。





 念の為記しておきますが、以上は既設設備等一部の例外を除いて全て公表された計画等を下敷きと しつつも独自に試算したものです。あくまで一個人の試案ですので、検索等で来られた方は 誤解の無き様。
 なお、引用は幾らでも御自由にどうぞ。

○履歴
 立案・着手:2005/1/中旬
 計算終了:1/下旬
 打ち込み・公開:3/25


参考資料:○ルート・線路条件
      JR時刻表、Mapion、新幹線はもっと速くできる(川島令三、1999年)
     ○車輌資料
      自筆ノート(速度種別や起動加速度、実測データ等より推定した特性曲線が主)
      鉄道総研 月例発表会『ブレーキからみた在来線140km/hの可能性』要旨(長谷川泉、1999年)
      (以上敬称略)


※執筆中BGM:全て受け止めて(足立美奈子、2003年)
        これからも、ずっと(同)
(C)2005 far-away(◆farawagyp.)

ダイヤ関連メニュー