飯田北線〜長野優等列車
 2005年度に長野県の補助で飯田〜長野間に特急列車の試験運転を行うとの話を知った ので(当該報道はこちら)、大きな 費用の掛かる線形改良を行わず、更に車体傾斜も非導入のままでどの程度まで行けるのかを調べてみました。
 単なる快速運転のみのケースから線形改良を行わない限りに於いてほぼ最大限のものまで、細かく分けて 所要時分を計算してあります。

車輌  所要時分等変化  運行ダイヤ  料金  総括



●車輌
 まず、現状でも使用可能な車輌として神領区の381系6連(4M2T)が挙げられる。飯田線には6両編成の入線実績があるので 使用は可能だが、しかし現状の輸送量とはあまりに違い過ぎるのでこれは1ユニットを外して2M2Tの4連とすべきだろう。こう すれば基本的にどの駅にも追加で停車させる事が可能となる。
 なお、飯田線内では振り子固定として扱う。

 次に、当然出てくるのがE257系。これは最小単位が1M1Tであり、現状を考えればこれで需要を十分賄えるだろう。

 そしてもう一つ、快速列車として運行する事も検討する為に313系を挙げておく。E257系同様最小単位が1M1Tなので 輸送力が著しく過剰となる心配は無いだろう。急行料金が不要となるので逆に輸送力が不足する恐れも無い訳では ないが、1.5M1.5Tでの3連や2連×2という組成も可能なので柔軟性という観点からは一番だろう。

 何れも至極単純なので編成図は略す。



●所要時分等変化
 所要時分のみならず、地上改良の費用推測についても記しておく。
 停車駅は現実味を考慮して長野、篠ノ井、松本、塩尻、岡谷、辰野、伊那市、駒ヶ根、伊那大島、飯田の途中8駅停車を 基本とし、辰野については通過の場合も考慮に入れてある(その都度特記)。
 また、単線区間が殆どだが行き違いの為の所要時分は考慮していない。あくまで基準時分の算定に過ぎないので、時間帯に よっては10分程度までの増加も考えられる。

車輌 個別改良点 区間別変化
飯田
〜辰野
辰野
〜長野
飯田
〜長野
推定工費
(※1)
66.4km 97.2km 163.6km
現行(快速みすず) 1:43(38.7km/h)
〜2:04(32.1km/h)
1:53(51.6km/h)
〜2:13(43.8km/h)
3:50(42.7km/h)
〜4:16(38.3km/h)
―――
381系2M2T ―――― 1:2730(45.5km/h) 1:2930(65.2km/h) 2:5830(55.0km/h) ―――
辰野通過 2:5700(55.5km/h)
一線スルー化 1:1830(50.8km/h) 2:4930(57.9km/h) 6.4億円
一線スルー化
辰野通過
2:4800(58.4km/h)
E257系1M1T ―――― 1:1930(50.1km/h) 1:2400(69.4km/h) 2:4500(59.5km/h) ―――
辰野通過 2:4330(60.0km/h)
一線スルー化 1:1030(56.5km/h) 2:3630(62.9km/h) 6.4億円
一線スルー化
辰野通過
2:3430(63.5km/h)
一線スルー化
一部線路改良(※2)
1:0715(59.2km/h) 2:3245(64.3km/h) 12.3億円
一線スルー化
一部線路改良(※2)
辰野通過
2:3115(64.9km/h)
一線スルー化
飯田線内全区間線路改良(※3)
辰野通過
1:0130(64.8km/h) 2:2530(67.5km/h) 19.7億円
313系1M1T ―――― 1:2230(48.3km/h) 1:2730(66.7km/h) 2:5130(57.2km/h) ―――
一線スルー化 1:1330(54.2km/h) 2:4230(60.4km/h) 6.4億円
一線スルー化
一部線路改良(※2)
1:1015(56.7km/h) 2:3915(61.6km/h) 12.3億円
一線スルー化
飯田線内全区間線路改良(※3)
1:0430(61.8km/h) 2:3330(63.9km/h) 19.7億円
高速バス(参考) 1:17
(飯田〜岡谷)
1:40
(岡谷〜長野)
2:57 ―――
 ※1:一線スルー化:4000万/駅
    路盤改良:最高速度向上対応強化のみ、2000万/km
 ※2:元善光寺〜羽場間計29.4kmにて85→100km/h
 ※3:※2に加え、飯田線内の※2対象外全区間計37.0kmにて85→95km/h

 快速でも現行表定30km/h程度、直線部でも最高85km/hに過ぎない路盤がそのままでは、いくら快速運転を 行って車輌側の性能向上を図り岡谷〜長野間で高速運転を行っても、所要時分短縮には限度があることが 以上より伺える。
 高速バスと同等の所要時分では乗客数はたかが知れており、試験運行ならともかく本格的に運行すると なれば、平行高速バスが9往復存在する区間では余程運賃を値引かない限り営業的に成り立たないのは 明らかだろう。

 ところが、飯田線内に於いて停車前提の伊那市、駒ヶ根、伊那大島を除く16駅で一線スルー化を施工 すると6.4億円で9分短縮できる。MT同数振り子固定の381系ではまだ然程ではないが、E257系と313系の 場合はそれなりの数字が出始める。
 更に本格運行を考慮して、飯田線内の線形が良い、100〜110km/h程度出しても支障が無いと思われる 区間に於いて最高速度向上の為に路盤と架線の強化を行う。線形改良の類は一切行わない。この手の 工事は一般に2〜3000万円/km程度の様だが、工費圧縮の為に最高速度は100km/h(ダイヤ計算95km/h)と あまり高くなく、一線スルー化工費は別に計算してあるので2000万円/kmとして計算した。これで3分15秒 短縮できるが、5.9億円になるのでこれのみで留めるにはやや効率が悪い。
 従って、飯田線内の他の区間でも主に曲線通過速度の向上を図って路盤と架線の強化を行う。一応最高 速度も85→95km/hとしてはおいたが、こちらでは最高速度向上の効果は初めから計算すらして いない。あくまで、曲線通過速度を一層向上させる(元々E257系と313系は従来車より曲線通過許容速度が 高い)ことを目的とした。これで5分45秒、7.4億円。
 以上で19.7億円、18分の短縮となる。線路改良の費用には県と沿線自治体が補助を出す公算が高い ので(誰も使わないような箱モノ造るよりは遥かにマシだろう。第一しなの鉄道には補助が出ている)、JRの 負担は数億円に加え車輌新製費といった所か。片道2時間半程度であれば一サイクル6時間で回せる ので、予備を含めて3編成で3時間間隔、4編成で2時間間隔の運行が可能となり、2連一本が3億円前後 なので車輌新製費は9〜12億円程度と思われる。つまり、JRの負担は合わせて20億円程度と推定 される。一日9往復に平均40人乗車、平均運賃1500円とすれば年間収入は3億9420万円であるから、収支 均衡程度に持ち込むことは可能だろう。



●運行ダイヤ
 飯田北線〜岡谷〜長野間の現行(2004/10改正)ダイヤに、上記のE257系及び313系各々の最速ケースを それぞれ特急、特快として重ねてみた。
中央東線特急:青実線(太)━━ 中央西線特急:紫実線(太)━━
飯田特急:赤実線(太)━━ 飯田特快:赤実線(細)──
快速:黄実線(細)── 快速みすず:水実線(細)──
普通:白実線(細)──  
 …ただただ、現行との違いを見せ付けられるばかりである。



●料金
 高速バス対抗の所要時分設定である以上、当然料金も高速バスに対して競争力を維持できる 範囲に留めなければならない。
 これの比較は以下の通り。

形態 特別料金 区間別料金計 備考
飯田
〜岡谷
飯田
〜松本
飯田
〜長野
75.9km 100.9km 163.6km
現行 ―――― 1450円 1890円 2940円 ―――
快速 1450円 1890円 2940円 料金不要の場合
乗車整理料金 1760円 2200円 3250円 セントラルライナー方式
急行 急行料金 2180円 2840円 3990円 自由席
特急 自由席A特急料金 2600円 3670円 5040円 自由席
指定席A特急料金 3110円 4180円 5550円 指定席
高速バス(参考) 1230円 1630円 2550円 片道
995円 1320円 2065円 往復/2
4枚綴り/4

 こういう訳で、運賃のみですら競争力が怪しいのが実情である。とても特別料金など付けられた ものではない。
 従って、初めから割引きっぷの設定を前提とする必要がある。一方18きっぷ等での利用を排除するので あれば急行または特急とする必要もあり、この場合現実的には運賃同額(例:Sきっぷフォー札幌〜旭川)または 運賃を下回る(例:Sきっぷ/Sきっぷフォー札幌〜名寄)程度の割引設定が必要だと思われる。
 回数券を使うことのできない通過客については高い料金を払ってでもJRを使わざるを得ない場面も 多いので、この際割り切ってそうした発想をするのも一手だろう。
 ともあれ、特急にせよ快速にせよ現行の運賃を大きく上回る実質価格設定にはできない。



●総括
 所要時分の面では高速バスに対し明らかに有利な数字を実現できるが、しかし料金面では 相当な苦戦を強いられることが推察できた。
 以上から、選択肢を幾つか挙げてみよう。

○E257系使用、特急で2時間25分。
 18きっぷ等格安乗車券での乗車が抑制でき、確実に料金を徴収できるが現行運賃を大きく下回る割引設定は
 難しい。
○313系使用、快速で2時間33分。
 名目上高速バス同等の割引設定が可能であるが、反面18きっぷ等の利用者、また通学の学生で混雑する
 恐れ有。
○E257系使用、快速/特急で2時間25分。
 優等列車が存在しない飯田〜岡谷間は快速、特急が既存の岡谷〜長野間は特急とする。折衷案。

 流石に313系で特急というのは通用しないので、前述の通り特急とするか否かで区別してある。
 高速バスに対する競争力を持たせるのならばこんな所だろうが、果たしてどうすべきなのか。飯田〜岡谷 間では特別料金を取らない方が利用促進に繋がると思われるので、2つ目または3つ目が妥当と考えているが…如何な ものだろうか。
 ともあれ事業費は比較的少なく抑えられるので、本気で検討するのならば20億円程度の工費を掛けて それなりに高速化した方が良いだろう。案は一つに絞れなかったが、一応の方向性は示せたのでこれで 結びとする。





 念の為記しておきますが、以上は既設設備等一部の例外を除いて全て公表された計画を下敷きとして 独自に試算したものです。あくまで一個人の試案ですので、検索等で来られた方は誤解の無き様。
 なお、引用は幾らでも御自由にどうぞ。

○履歴
 立案・着手:2005/2/3
 計算:2/4
 打ち込み・文章:2/5〜6
 公開:2/6


参考資料:○ルート・線路条件
      183/381系全盛時代及び現行のJR時刻表、Mapion
     ○車輌資料
      自筆ノートのみ
     ○運賃資料
      信州交通案内(アルピコグループ)
      (以上敬称略)

※執筆中BGM:Mission to the Empty Space(桜庭統、2003年)
(C)2005 far-away(◆farawagyp.)


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