山陰新幹線計画+α
 山陰新幹線建設促進期成同盟会の試算で 工費4兆円との話ですが、一応基本計画線の端くれなので一通り計算してみました。…いや、試算したら 他の手段で実質代替可能どころか害の方が大きい代物らしいという結果が出ましたけど(汗)。

○山陰新幹線
ルート  輸送力  車輌  駅詳細  基準運転時分・所要時分  運行ダイヤ

○中国横断新幹線
ルート  輸送力  車輌  駅詳細  基準運転時分・所要時分  運行ダイヤ

比較  総括



●ルート
 基本計画では大阪市〜鳥取市〜松江市〜下関市で約550kmとの事だが、利便性の為にある程度の 迂回を含めて建設総延長は597kmとした。なお、山陽新幹線と軌道を併用する区間を新大阪 付近に9km、新下関付近に3km取ったので列車運行上延長は609kmとなる。

 新大阪起点9km地点で山陽新幹線から38番分岐器で分岐し、宝塚〜和田山〜豊岡を経て鳥取に 向かう。ここからは現山陰本線に沿って倉吉〜米子〜松江〜出雲市〜大田市〜江津〜浜田〜益 田〜東萩〜長門市と辿り、もう暫く海岸付近に沿ってから内陸に入りトンネルを抜け、山陽新幹線の 新下関手前3km地点にて38番分岐器で合流する。
 トンネルを用いて山地を一気に抜け、できるだけ平地を通るルートである。その為、所要時分 計算に影響を及ぼさないごく短時間のものを除いて規格外勾配は取っていない。



●輸送力
 現状では、特急列車の運行頻度が0.5本/時を超える並行区間は和田山〜城崎間及び鳥取〜倉吉 間、米子〜出雲市間のみである。更に編成長も2〜4両と短く、益田以西は今月限りで優等列車の 運行自体が廃止される。
 従って、4〜6両程度の列車を毎時1本運行すればそれだけで輸送力は5倍以上に跳ね 上がり、需要を十分に賄えるどころかそれでも過剰となる可能性が極めて高い。これでは おいそれと速達列車を設定する余裕は無く、大部分の列車は山陽区間のこだま同様ローカル輸送に 徹する形となる。



●車輌
 仮に営業を開始するとしても数十年後の事になると思われるので、短編成化された700系とする。制御電動車 改造に際しての機器スペースの問題を考えるとややこしくなるので、輸送力過剰を承知の上で便宜的に8両編成とした。

 ○700系3000代8連
 ←博 多                        新大阪→
12 34 56 78
Tc
72330
M2
72730
Mp
72635
M1
72536
M1
72533
Mp
72630
M2
72735
T'c
72430
65名 100名 85名 100名 90名100名 80名75名
 編成定員695名
 性能は変更無し。



●駅詳細
 全駅既存の在来線駅に併設。
 配線は鳥取、松江、益田の3駅が国鉄型2面3線、他は対向式2面2線(出雲市には片渡り線設置)。一応 通過列車を想定して対向式ホームの各駅には可動柵を設置する。



●基準運転時分・所要時分
 最高速度は整備新幹線各線の例に従い頭打ち260km/hとする。
 停車時分は鳥取、松江、益田の3駅が1分30秒、他は1分。基準時分は余裕時分込み。
新大阪
からの
キロ程
駅間
キロ
駅  名 各停 速達 駅  名
基準時分 新大阪からの
到達時分
停車駅間
平均速度
基準時分 停車駅間
所要時分
停車駅間
平均速度
新大阪からの
到達時分
0
20
117
143
212
251
304
331
364
394
424
440
472
523
549
609
629.7
685.6
20
97
26
69
39
53
27
33
30
30
16
32
51
26
60
20.7
55.9
新 大 阪
宝   塚
和 田 山
豊   岡
鳥   取
倉   吉
米   子
松   江
出 雲 市
大 田 市
江   津
浜   田
益   田
東   萩
長 門 市
新 下 関
小   倉
博   多
9'15
26'30
8'30
19'45
12'45
15'00
9'45
11'15
9'30
9'30
6'15
11'00
15'30
8'30
17'45
8'30
17'00
0'00
9'15
36'45
46'15
1:07'00
1:21'15
1:37'15
1:48'00
2:00'45
2:11'15
2:21'45
2:29'00
2:41'00
2:58'00
3:07'30
3:26'15
3:35'45
3:53'45
129.7
219.6
183.5
209.6
183.5
212.0
166.2
176.0
189.5
189.5
153.6
174.5
197.4
183.5
202.8
146.1
197.3
9'15
25'30
6'15
18'30
11'45
13'45
9'45
11'15
8'30
7'15
4'00
9'45
14'30
6'15
16'30
8'30
17'00
9'15

50'15

25'30

9'45
11'15

29'30



37'15

8'30
17'00
129.7

229.3

216.5

166.2
176.0

219.7



220.7

146.1
197.3
0'00
9'15


1:00'30

1:27'30
1:38'15
1:51'00



2:21'30


3:00'15
3:09'45
3:27'45
新 大 阪
宝   塚
和 田 山
豊   岡
鳥   取
倉   吉
米   子
松   江
出 雲 市
大 田 市
江   津
浜   田
益   田
東   萩
長 門 市
新 下 関
小   倉
博   多
 新大阪〜新下関間に於いて表定速度は各停型177.2km/h、速達型202.7km/h。設置駅そのものを抑えて 駅間距離が長くなった分平均速度は比較的高くなっている。
 所要時間を見れば、十分に意味のあるものにも見えるだろう。しかし…。



●運行ダイヤ
 益田以東で1本/時、益田以西は4時間に1本とする。この為、益田以西では快速運転は行わない。
各停型:白実線(細)── 速達型:赤実線(太)━━
 利便性は山陰全体に渡って著しく向上するだろう。
 反面、和田山〜伯耆大山間199.2km若しくは城崎〜伯耆大山間160.2km並びに出雲市〜幡生 間289.2kmが経営分離されることも想像に難くない。
 …少なくとも乗ってみた限りではローカル輸送のみを取り出せば青い森鉄道、いわて 銀河鉄道、肥薩おれんじ鉄道等と肩を並べるほどに困難な状況だと思うが、果たして 三セク化で長期間の維持は可能なのだろうか?
 また、智頭急行の経営も極めて苦しくなることが容易に予想できる。公費補填か 鉄道廃止か、さもなくば相当レベルの事業整理か、いずれにせよ京阪神対鳥取東部の 特急輸送が消滅した後まで現状の経営を続けられないのは明らかだろう。








さて、山陰新幹線はそれ単体で完結するものではなく、それと組となる基本計画路線も存在する。

中国横断新幹線


●ルート
 基本計画では岡山市〜松江市で約150km。この内米子市〜松江市の間は山陰新幹線とルートが 重なるので、実質は岡山市〜米子市となる。ここでは山陰新幹線への対案として用いるので 松江市までの全区間を含むものとし、建設総延長は139km、列車運行上延長は山陽新幹線と 軌道を併用する岡山から10kmの区間を加えた149kmとなる。

 岡山より下り方10km地点で山陽新幹線から38番分岐器で分岐し、伯備線沿いに新見を経て 日南からは根雨・江尾方面には向かわずに南部へ抜けてほぼ最短距離で直接米子を目指す。
 米子手前からは山陰新幹線と同ルートで松江まで。
 連続勾配はどうにか15‰に抑えられるので、700系の能力であれば最高速度運転が 可能である(上り15‰均衡253km/h)。



●輸送力
 6両編成の特急列車が毎時1本行き交う線区であり、先例に従うと相当量の潜在需要が 期待できるので8両編成を2本/時とする。



●車輌
 前述の山陰新幹線車輌に同じく、700系8連とする。



●駅詳細
 全駅既存の在来線駅に併設。
 路線長が短く、追越しを考慮する必要は無いので新見及び米子は対向式2面2線、松江は島式1面2線と する。また全列車全駅停車とし、可動柵は設置しない。
 勾配途中となる上に新見との間隔が20kmあまりしかないのでここでは備中高梁に駅を 設置しないが、6分程度の所要時分増と一駅分の建設費を許容すれば増設も可能である。この場合は 予め駅前後部分を平坦線としておく必要がある。



●基準運転時分・所要時分
 岡山以西の最高速度は整備新幹線各線の例に従い頭打ち260km/hとする。
 停車時分は各駅1分、基準時分は余裕時分込み(岡山以西各駅間1分)。
新大阪
からの
キロ程
駅間
キロ
駅  名 基準時分 新大阪からの
到達時分
停車駅間
平均速度
0
32.6
54.8
85.9
105.9
160.9
220.9
282.9
309.9
32.6
22.2
31.1
20.0
55.0
60
62
27
新 大 阪
新 神 戸
西 明 石
姫   路
相   生
岡   山
新   見
米   子
松   江
11'45
7'30
10'00
7'15
16'15
18'15
19'30
9'45
0'00
11'45
20'15
31'15
39'30
56'45
1:16'00
1:36'30
1:47'15
166.5
177.6
186.6
165.5
203.1
197.3
190.1
166.2
 待避を考慮しなければ表定速度は新大阪〜松江で173.4km/h、岡山〜松江で188.2km/h。現行に 比べ1時間半〜2時間程度の時間短縮になるので効果は十分である。
 …あくまで直接効果だけを見た場合の話だが。



●運行ダイヤ
 相当年先と考えられるので、博多のぞみは西明石以西でJR東海受持ちの列車が300km/h運転、JR西日本 受持ちの列車が360km/h運転を行っていると仮定した。それ以外ののぞみ及びひかりは270〜285km/h運 転、こだまは相変わらず230km/hとしてある。
 中国横断新幹線は岡山〜松江間及び新大阪〜松江間の列車が各1本/時、山陽新幹線内は285km/h運転で 全区間に於いて各駅停車とする。
 なお、比較の為に現行やくものスジを上から重ねてみた。
博多のぞみ西日本車:青実線(太)━━ 博多のぞみ東海車:紫実線(太)━━
その他のぞみ:赤実線(太)━━ ひかり:白実線(太)━━
こだま:白実線(細)── 中国横断新幹線:黄実線(細)──
現行やくも:赤実線(細)──  
 これで需要はほぼ賄えるだろう。
 経営分離対象は倉敷〜伯耆大山間138.4kmとなるだろうか。山岳路線である伯備線を維持するのは 少々骨だろうと思うが、山陰本線の殆どを切り離すよりは地元負担を抑えられる筈である。



●比較
 建設費は山陰新幹線が約4兆円、中国横断新幹線では約1兆円と推定される。前者の建設費が 償還不可能なのは事細かに書くまでもないとして(一応簡潔に書くと一列車平均300名乗車で 年間収入93億円。つまり償還対象1/2、年利1%で利子相当部分の半分が返せない。無利でも 償還年数は430年となる)、後者も一列車平均200名乗車で28往復とすると年間収入は204億円 となり、償還対象1/2年利2%では償還年数は35年、償還対象2/3年利1%では41年、償還 対象2/3年利2%では56年。この前提で償還がぎりぎりなので、仮に建設するならばある程度の 建設費抑制が不可欠だろう。
 しかも米子〜出雲市周辺の需要は双方が喰い合うので、両方を建設するという選択が最悪の 結果を招くことは想像に難くない。従って、仮に新幹線として建設するとしてもいずれか一方 のみとした上で、更に在来線改良の場合も交えて以下に比較を示した。
 3/20修正:中国横断新幹線+鳥取〜出雲市間建設の例を追加。
個別変更点 区間別変化(※1) 備考
新大阪
〜鳥取
新大阪
〜米子
新大阪
〜出雲市
新大阪
〜益田(※2)
新大阪
〜豊岡
東京
〜米子(※3)
現行(新幹線+在来線特急) 2:30(84.3km/h)
2:27(86.0km/h)
3:08(102.1km/h)
2:51(112.3km/h)
3:59(95.8km/h)
3:39(104.5km/h)
3:27(151.6km/h) 2:45(63.3km/h)
2:35(67.4km/h)
5:47(144.4km/h)
5:24(154.7km/h)
 
210.7km 320.0km 381.6km 523.1km 174.1km 835.4km
中国横断新幹線経由 2:29(151.2km/h)
2:26(154.4km/h)
1:27(195.1km/h) 2:09(160.2km/h)
2:01(170.8km/h)
3:43(127.1km/h)
3:34(132.5km/h)
――― 3:59(200.4km/h)  
375.6km 282.9km 344.5km 472.5km ――― 798.3km
在来各線高速化 2:23(86.9km/h)
2:20(88.8km/h)
2:52(108.7km/h)
2:35(120.6km/h)
3:36(103.7km/h)
3:16(114.2km/h)
3:18(158.5km/h) 2:34(67.8km/h)
2:24(72.5km/h)
5:24(153.1km/h)
5:01(164.9km/h)
(※4)
207.1km 311.6km 373.2km 523.1km 174.1km 827.0km
在来各線更に高速化 2:08(86.9km/h)
2:05(88.8km/h)
2:52(108.7km/h)
2:35(120.6km/h)
3:36(103.7km/h)
3:16(114.2km/h)
3:00(174.4km/h) 2:34(67.8km/h)
2:24(72.5km/h)
5:24(153.1km/h)
5:01(164.9km/h)
(※5)
207.1km 311.6km 373.2km 523.1km 174.1km 827.0km
中国横断新幹線+在来線高速化 2:08(86.9km/h)
2:05(88.8km/h)
1:27(195.1km/h) 2:09(160.2km/h)
2:01(170.8km/h)
3:00(174.4km/h) 2:34(67.8km/h)
2:24(72.5km/h)
3:59(200.4km/h) (※6)
207.1km(在) 282.9km(新) 344.5km(新) 523.1km(在) 174.1km(在) 798.3km(新)
中国横断新幹線+在来線高速化
+鳥取〜出雲市間新幹線化
1:56(193.9km/h) 1:27(195.1km/h) 1:50(187.0km/h) 3:00(174.4km/h) 2:34(67.8km/h)
2:24(72.5km/h)
3:59(200.4km/h) (※7)
374.9km(新) 282.9km(新) 342.9km(新) 523.1km(在) 174.1km(在) 798.3km(新)
山陰新幹線経由 1:07(189.9km/h)
1:00(212.0km/h)
1:37(188.0km/h)
1:27(209.7km/h)
2:00(182.0km/h)
1:51(196.8km/h)
2:41(175.9km/h)
2:21(200.9km/h)
0:46(186.5km/h) 4:12(195.1km/h)
4:02(203.2km/h)
 
212km 304km 364km 472km 143km 819.4km
※1:現存新幹線―新設新幹線の乗り継ぎ時分は5分、新設新幹線―在来線は3分、現存新幹線―在来線は
   8分とした。但し中国横断新幹線については前掲のダイヤに準ずる。
※2:山陽新幹線西明石以西でのJR西日本受持ち列車360km/h運転、新神戸及び新山口停車を前提とする。
※3:現行以外の東京〜新大阪間所要時分は2時間30分とする。
※4:伯備線備中高梁〜新見間短絡単線新線160km/h(推定建設費4〜500億・時短効果15分)、山陰本線
   伯耆大山〜出雲市間130km/h対応及び伯備線一線スルー化(推定工費30〜40億・時短効果8分)、
   因美線智頭〜郡家間短絡非電化単線新線130km/h(推定建設費3〜400億・時短効果7分)、福知山線
   新三田〜福知山間120km/h対応並びに線内車体傾斜対応及びカント限界向上(推定工費30〜35億・
   時短効果7分)、山陰本線福知山〜和田山間車体傾斜対応(推定工費3〜4億・時短効果4分)を想定。
   推定費用計800〜1000億円。
※5:※4に加え智頭急行及び因美線智頭〜鳥取間電化160km/h対応(推定工費300〜350億・時短効果9分)、
   及び京都〜姫路間140km/h対応(新快速運行区間に付き工費無視・時短効果7分)、山陰本線鳥取〜
   伯耆大山間電化(推定工費150〜200億・比較区間外に付き時短効果省略)、山口線120km/h対応及び
   車体傾斜対応及び自動閉塞化(推定工費60〜70億円・時短効果18分)。
   推定費用計1300〜1600億円。
   (つまり在来線の範囲内での限界強化+最小限の引き直し。これ以上は相応の大予算が必要)
※6:※5から伯備線相当部分を削除。在来線部分推定費用計800〜1000億円。
※7:※6から智頭急行関連部分及び新幹線並行部分を削除。在来線部分推定費用計90〜110億円、追加
   新幹線建設費用推定6〜9000億円(125km、50〜70億円/kmでの値)。



●総括
 何という事はない。現行に比べ著しい利便性向上が山陰新幹線によってのみ 図られるのは兵庫北部・鳥取東部・山口北部のみであり、その範囲の沿線人口は100万を下回る程度で主要 都市は鳥取ただ一つ。これに4兆までも費やす必要性は極めて疑わしい。
 少々怪しい論拠である経済波及効果すら持ち出せないと思われるほどに酷いので、基本計画以上の ものとなっていないのは当然だろう。これらの地域だけで4兆に値するだけの経済効果を上げられるのならば 話は別だろうが、その為には所得倍増が不可欠である。…インフレで貨幣価値が半分に目減りするのと、債務に 押し潰されるのとは果たしてどちらが先になるだろうか。
 やはり効果の大きい地域が限られる(鳥取西部及び島根東部)中国横断新幹線の建設もかなり危ういものが あるが、山陰新幹線に比べれば遥かにましだろう。現実には鉄道利用が少なくバス利用が主な区間での 在来線短絡新線の建設とGCT投入を以って替えることになるのだろうが、この場合劇的にまでは時間を 短縮することはできない。
 まあ、新幹線建設と在来線高速化とのいずれを選択するかは現行の整備新幹線建設が一段落する頃の 財政状況次第だろう。こちらについては現時点ではどうとも言いかねる。


○履歴
 立案:2005/1/下旬
 着手:2/上旬
 完成・公開:2/27

 修正(比較に折衷案追加):3/20

参考資料:○地形条件・現状建造物状況
      日本地図帳(昭文社、1983年)、Mapion
     ○現状ダイヤ・路線資料
      JR時刻表
     ○車輌資料
      自筆ノート、新幹線はもっと速くできる(川島令三、1999年)、
      鉄道ジャーナル99年7月号、鉄道ファン00年3月号
      (以上敬称略)


(C)2005 far-away(◆farawagyp.)

ダイヤ関連メニュー