新幹線鉄道規格新線について
 全幹法(正式名称:全国新幹線鉄道整備法)に於いて規定されている新幹線鉄道規格 新線、通称スーパー特急とすることによって生じる制度上及び技術基準上の変更点を全幹法及び関連 法令・省令、並びに鉄道に関する技術上の基準を定める省令及び解釈基準から書き出してみました。

 下の方では論旨が様変わりしていますけれど。

定義
規定上の制約
 在来線としても130km/hを超える場合に 関わる制約
 新幹線に準じることで建設時に 加わる制約
雑感



●定義
 全幹法附則第6項に於いて、新幹線鉄道規格新線は以下の様に規定されている。
 国土交通大臣は、新幹線鉄道の整備に関する諸事情を踏まえ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の 一部を暫定的に構成する新幹線鉄道に準ずる高速鉄道を整備することにより高速輸送体系の形成に資するため、当分の 間、第八条の規定による建設の指示(整備計画線の着工命令)を行つた 建設線の全部又は一部の区間について、政令で定めるところにより、次に掲げる新幹線鉄道規格新線及び新幹線鉄道 直通線(以下「新幹線鉄道規格新線等」という。)の建設に関する整備計画(以下「暫定整備計画」という。)を 決定することができる。
一  新幹線鉄道規格新線 その鉄道施設のうち国土交通省令で定める主要な構造物
(線路(施行 規則附則第2項))が新幹線鉄道に係る鉄道営業法第一条の国土交通省令で定める規程に 適合する鉄道
 (平成3年法律第47号で創設、1991年4月26日公布即日施行)
 として、線路構造を新幹線のそれと同一にしたものを整備新幹線の枠の中で建設することができる。厳密には暫定整備 計画決定の前提として予め整備計画線の着工命令が必要な構成であるのが少々問題ともいえるが、命令後即時変更命令と いう手段で行われれば形式上問題ないので、必要とあらば柔軟な運用も実務上は可能だろう(全幹法に 似た手順を求める高速自動車国道の国幹道会議では、現に複数手順が同時に議題とされている)
 また、第7項〜第9項及び第12項により、新幹線鉄道規格新線等では建設主体を機構とすることが求められている。従って 特例を追加しない限り、費用負担は自動的に国:地方=2:1となる(法附則第13項準用法 第13条1項及び施行令附則第5項準用施行令第8条1項)
 因みに、新幹線鉄道規格新線では不可能だが、機構が建設しない新幹線はこの限りで ない(例えばJR東海が中央新幹線を独力で建設する等は可能)


●規定上の制約
 在来線の130km/h超走行で求められる制約と新幹線規格で求められる制約とは異なるが、新幹線鉄道 規格新線として建設する場合には後者を満たさなければならない。この差分は建設コスト増として跳ね返るが、単なる 在来線改良として行うのではなく整備新幹線の枠組みの中で建設するには、これを受け入れるしかない。

○在来線としても130km/hを超える場合に関わる制約
 在来線であっても130km/h超で走行させる場合に最低限必要とされる主な制約は 以下の通り。なお、130km/h以下でも必要となるものについても比較上必要なものは含めた。
  • 営業列車走行部分の最小半径160m
    (解釈基準第3章3節1号(法第14条部分))
  • ホームに沿う曲線の最小半径400m
    (解釈基準第3章3節5号(法第14条部分))
  • 新線の場合昼間60dB、夜間55dB(住宅を建てることが認められていない地域及び通常住民の生活が考えられない 地域を除く。また、事故、自然災害、大晦日等通常と異なる運行をする場合にはこれを適用しない)
    (解釈基準第1章3節2項(法第6条部分))
  • 最急勾配25‰(等価査定勾配・機関車牽引列車が走行する場合)
    最急勾配35‰(等価査定勾配・機関車牽引列車が走行しない場合)
    分岐器最急勾配25‰、停止区域最急勾配5‰
    (解釈基準第3章7節1号(法第18条部分))
  • 縦曲線半径2000m
    (解釈基準第3章8節1項1号(法第19条部分))
  • 160km/h以下の軌道中心間隔は車両限界の基礎限界の最大幅+600mm
    (解釈基準第3章11節1項1号(法第22条部分))
  • 160km/h超200km/h未満の軌道中心間隔は車両限界の基礎限界の最大幅+800mm
    (解釈基準第3章11節1項1号及び2号(法第22条部分)、並びに「新幹線に準ずる速度」(160km/h超200km/h未満:解釈 基準第5章1節(法第39条部分)で定義)の扱いから類推)
  • 130km/h超の通過ホーム:通過する列車の速度・車体形状に合わせて、通過ホームで
     (1)可動式ホーム柵等、
     (2)通過時のホームからの旅客排除、
     (3)ホーム係員による旅客への注意喚起等、
    のいずれかの対策を要する。
    (解釈基準第4章2節5号(法第36条部分))
  • 130km/h超160km/h以下の踏切:第一種踏切のみ存続可、自動車通行可能なものは障害物検知装置を設置し、大型 自動車の通行を排除するかまたは大型自動車対策を施すこと。
    160km/h超200km/h未満:踏切完全撤廃
    (解釈基準第5章1節(法第39条部分)及び第5章2節5号(法第40条部分))
  • 600m条項:必須でなくなっただけで、標準とされ600mを超える場合には依然特別な列車防護措置が求められる
    (解釈基準第10章15節5号(法第106条部分))

○新幹線に準じることで建設時に加わる制約
 新幹線鉄道規格新線として建設する場合に、高規格在来線では要求されないが新幹線規格と することで加わる主な制約は以下の通り。
  • 営業列車走行部分の最小半径400m
    (解釈基準第3章3節1号(法第14条部分))
  • ホームに沿う曲線の最小半径1000m
    (解釈基準第3章3節5号(法第14条部分))
  • 最急勾配25‰(原則)
    列車に対策措置を施すことにより最急勾配35‰
    停止区域最急勾配3‰
    (解釈基準第3章7節2項(法第18条部分))
  • 縦曲線半径10000m
    (解釈基準第3章8節1項2号(法第19条部分))
  • 建築限界・基礎工規格変更
    (解釈基準該当箇所多数)
  • 軌道中心間隔は車両限界の基礎限界最大幅+800mm
    (解釈基準第3章11節1項2号(法第22条部分))

※新幹線特例法に関連する立入禁止等の各規制は最高速度が200km/h以上に達してから。200km/h以上に達した 際には、他にも運用上の制約及び車輌側への制約として
  • 75dB(工業専用地域、現に人が殆ど住んでいない地域を除く)、在来線の場合の基準は適用外に。
    (解釈基準第1章3節1項(法第6条部分))
  • ホームの縦深は島式9m以上、相対式5m以上。
    (解釈基準第4章2節2号(法第36条部分))
  • ホーム上の構造物とホーム縁端との距離の拡大。
    但しホームドア等(大宮にあるような柵ではない!)を設ける場合は在来線と同様にできる。
    (解釈基準第4章2節4号(法第36条部分))
  • 車輪径は730mm以上(在来線は680mm以上)、他細々と。
    (解釈基準第8章3節2項4号(法第67条部分))
  • 独立して作用する複数系統のブレーキを要求、最低減速度指定。機関車容認。在来線の場合の条件は若干適用外に。
    (解釈基準第8章5節8項(法第69条部分))
等が加わる。


●雑感
 在来線でも130km/h超運転を行う際には追加対策が要求されるため、元々新幹線でも在来線でも 大差ない距離当たりの建設費は、更に新幹線へと近付いてしまう。また面白いことに、新幹線であっても 複線化は要求されていない。従って、現整備計画線完成後の線路使用料と現行の在来線改良費の差も 考慮すれば、新幹線として建設するほうが容易な状況が発生し得るわけである。
 また、途中駅の追加に対する規制は保安上のものだけで、構造上の基準を満たせばいくらでも 追加できる。駅が若干動く程度で利用者としては実質的に線路付替と同様であれば、旧線を廃止しても 沿線自治体に異論はないだろう。地元の足の問題は、新線に同等の駅を置けば済む問題である。
 つまりこれは、在来線線形改良の上位互換として利用することもできる代物である。

 要は、ドイツに於ける在来線のABS化と同様かそれ以上の事が日本でも可能となる制度である。

(以下小文字部分は政策論になってしまうので読み飛ばして戴いて結構です)
 TGVやICEの思想も、使えるものは使うべきではないだろうか。路線環境上車輌で使えるものが 多くなくとも、路線設計で使える部分があれば取り入れて然るべきである。特に、既存路線の 過密問題が発生しておらず専ら特急の高速化を図ることが目的となる計画路線であれば、TGVの パリ近郊やKTXのソウル近郊で問題となった在来線走行部の線路容量問題もさして発生させずに済むだろう。
 基本計画線止まりになっている区間の中には、例えば幌向〜納内や鷲別〜北広島の様に 極めて線形が良く踏切対策さえ行えば130km/h超の高速運転が可能な区間(障害物検知と防護無線と 早期遮断とを組み合わせれば踏切有でも600mに拘らなくてよい可能性がある)もあれば、山間部 のR300〜400続きで路盤改良程度では100km/h走行すらおぼつかない区間もある。前者は規定解釈と 踏切対策次第の上にそもそも高速バスに所要時間で肉薄されることはないので置いておくと しても、後者は抜本改良を行わなければ高速道路網の拡充と共に競争力が低下することは 明らかで、特に新直轄及び並行自専道によって無料区間が生じている以上、今後の開通路線は 今まで以上に鉄道の競争力を削ぐ可能性を否定できない。
 現在の整備計画線の様にフル規格でも10年前後で完成させられる状況ではないものの、ある程度の 財源が見込めるとしたら(一般会計拠出額据置+線路使用料で900〜1000億なら建設予算は1400〜1500億程度に なる)、NBSではなくABSの道を採るのも一手でしょう?
 停車する主要都市の前後のみ在来線を利用すれば用地買収費を抑えられる。仮に将来財政状況が 好転してフル化するとして、その時新幹線車輌を通すためには在来線として建設された旧来区間 を、三線軌化を含め改良する必要も生じようが、その区間が短ければ少なくとも長期間運休を 伴うようなことにはならないと思われる。つまりミニ化のような問題は起きない。新幹線鉄道 直通線には最高速度130km/h対応及び新幹線直通車輌への対応が求められているのみなので、流用する 旧来区間をこれとしてしまえば、取り立てて線形を変更する必要まではないのである。また、新線区間を 海峡線の様に予め三線軌化可能としておけば貨物併用も可能であるし、ローカル輸送の並存も不可能 ではない。元々特急以外の運行本数が少なければ、退避設備の経費もそう大きなものではない。
 また、国交省は在来線の高速化改良推進を模索しているとの交通新聞の報道もある(交通新聞2007年10月3日 付トップ記事)。この流れに乗らずして何とする。

 以上の通りなので、必要に応じて新幹線建設のみならず在来線高速化の手段としても捉えてみることにしたい。



 念の為記しておきますが、以上はあくまで一個人の解釈です。間違っても自治体等関連各所の方は 原文に当たらないまま利用しないでください。責任は一切負えません。

 なお雑感以外の内容は、あくまで単なる条文解釈なので原則好き 勝手に使って戴いて結構です。
  但し、文章丸パクリや雑感部分の筆者詐称は勘弁してください。逆に雑感部分でもヒントにするとか レポートの参考にするとか、適切に利用されるならいいんですが。


○履歴
 もやもやと構想・条文精読:2007年中
 着手・全幹法条文:2008/1/12
 比較部:1/14
 雑感・公開:1/16
 誤記・脱字修正(新幹線に準ずる速度上限、良線形区間を正確に、数箇所で「鉄道」の 文字が抜けていた):1/18
 表記修正:3/11


○参考資料
 ・各法令・省令条文、
 ・国鉄技第157号 鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準について
   (国交省鉄道局長通知、2002年)
 ・「在来鉄道の高速化促進」交通新聞2007年10月3日
  (以上敬称略)


※執筆中BGM:風林火山−メイン・テーマ−(千住明、2007年)
(C)2008 far-away(◆farawagyp.)

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