上越新幹線ダイヤ案を組んではみたものの高崎以北の線路容量と需要の差があまりに
勿体無く残念と思っていた時に、JR北海道の所謂コキごと発明の公開特許公報と東海道新幹線建設基準(特にN荷重
及びP荷重の詳細)を目にして、それから1日ばかりした所で突如思い付いたのが貨物利用です。
…交通博物館の倉出し模型(例の新幹線貨物電車イラストを模型化したもの)を、閉館3週間前に見てきたのも
一因ですが。
新潟新幹線車両センター(旧新潟新幹線第一)、新潟車両センター(旧上沼垂)、新潟(タ)及び新潟東港の
位置関係から、新潟新幹線車両センターと新潟(タ)を繋ぐ形で連絡線を設置するとこの上無い配線となりそうです。
問題は、高崎付近の配線で…この想定で行ったように高崎構内から1km程度を弄ってアプローチ線を取り付けられれば
問題無いのですが、比較的簡易な構造物の若干の移動を見込んでもなおその余裕が無かった場合には他の場所で
接続せざるを得ません。
極端な手段としては熊谷(タ)からの分岐などもありますが、こちらは上越新幹線の軌道までの距離とその接続に掛かる
建設費を考えればなるべく避けたい所です。
渋川や上毛高原辺りでの接続はあまりに問題が大き過ぎるので、最早検討するまでもないでしょう。
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●車輌
幾通りかのパターンで加速度曲線を引き、その内2パターンについては最高速度210km/hとして実際に運転曲線の
計算まで行って検討した所、旅客列車が275〜300km/h程度に留まるのであれば最も出力の低いパターンでも必要十分と
判断できたのでそれを示しておく。
まず、P-17荷重を基準に荷重分布を考える。20mボギー車の軸重17t以下という条件、及びコキ100系列の連結面間が20mで
あることから、所謂コキごと(Train on Train:ToT)による最大積車重量68t/輌、コキ100系列の諸元を参考に最大貨物
荷重32t/輌とした。この場合、ToT利用の列車についてはコンテナ重量を6.4t/個に制限するか、または原則4個/輌積載に
抑えて重量次第では積み増して5個/輌に、等といった対策を講じる必要が生じる。荷主の負担と手間を考慮すれば、JR側の
取扱いのみで事足りる後者が妥当だろう。
続いて標準軌上での動力車であるが、高速走行を考慮して6軸ではなく4軸に限定した上で、更に動軸数を優先させて
冗長性の確保と軌道破壊の抑制をも考慮し、何より停車場の有効長をできるだけ利用するために1両の長さは13.5mと
する。軸間隔が2.2/6.3/2.2mの時、橋梁部に於いてどのような径間であってもP-17荷重と同等以内の静荷重に収まる
軸重を求めると約9.71tとなるので(径間18.5〜20mの場合のみ)、ここから動力車の運転整備重量は40t/輌とした。
新幹線用の走行抵抗式より、210km/h、401m、1328tでのトンネル内走行抵抗は、
(1.2+22×210/1000)1328g+(50/1000+34×401/105)2102g≒156.4kN
同明かり区間で、
(1.2+22×210/1000)1328g+(13/1000+29×401/105)2102g≒131.7kN
新幹線用の計画粘着式を用いて、210km/h、軸重10t、24軸で予定できる動輪上引張力は、
10g×13.6/(85+210)×24≒108.5kN
これは少々問題があるが、貨物列車であり停車が少ないこと、力行制動の大半がトンネル内であり降雨を
あまり気にする必要がないこと、このトンネル内走行抵抗と引張力は176km/h、明かり区間では190km/hで
均衡するので最高速度付近以外では問題ない、つまり若干のアルミナ噴射程度で対応できることから、粘着性能の
低下は特に考慮せずにおくこととする。
また、新幹線用の粘着式を用いると以上の通りながら、従来の汎用の式でμ=0.136とすれば問題ない範囲でもある。
定出力域での電動機実入力を675kW×24=16200kWとし、軸出力と軸重から、更に軸重換算で約1:5.5という
低MT比により引張力を上げ過ぎると非常に危ういので、歯数比はこの手のものにしては
高速寄りの22:77=1:3.50と設定した。
定格出力は、E4系の過負荷率を推定し参考にすると520kW程度あれば十分だろう。520×24=12480kW、つま
り6000kW級電機によるプッシュプルと考えれば解りやすい。
定出力域111〜170km/h、起動加速度1.2km/h/s、速度種別A88、トンネル内上り12‰均衡176km/h。
編成図は以下の通り。
○標準軌上
狭軌のコキを標準軌用貨車に積載して固定したものを、前述の標準機用動力車によるプッシュプルで
走行するものとした。
|
編成総荷重800t(コキ×16輌)
更に積載するコキの自重を勘案すると、貨物としての荷重上限は32×16=512tとなる。
標準軌用貨車の自重18tは現状では相当に厳しいものがあると思うが、特定区間限定運用で一般の貨車ほど
多くの車輌を必要としないことを考えれば台枠への軽合金の採用や、構造及び風圧以上の支持が必要ない
構体部へは複合材の採用も検討する余地があるのではないだろうか。
とりあえず、ここではこの点についてあまり深く考えずに、ある程度具体的な可能性については材料・構造系に
通じている人々の検討に委ねておく。
○在来線上
続いて、在来線上について。特開2005-262914(JP,A)「貨物列車及び列車搬入搬出方法」にある第2の
実施例(0056〜0076段落)を参考に併解結が行われるものとして考えた。この場合は地上設備の対応を
行えば済み車輌側にさほど特殊な装備を加える必要もなく、更に作業時間も比較的抑えられるので、地上設備の
対応を既存の設備に手を加えるという形で行うには妥当な所だろうと判断したものである。
在来線上の本線走行では通常のコキ16連+機関車という通常の800t列車または増解結の形態となるので、こちらの
編成図は略しておく。関東内ではEF64、65、210等による、日本海縦貫線側ではEF81、510による牽引が主になることだろう。
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●Train On Train実施例(概要)
○概要
特開2005-262914「貨物列車及び列車搬入搬出方法」の一解釈として、特に第2の実施例(0056〜0076段落)を参考に
以下のようなものを考えてみた。
|
青線部:標準軌、赤線部:狭軌、緑地部:トラバーサ、茶斜線部:トラバーサ可動範囲。
このように、ヤード(高崎操車場及び新潟貨物ターミナル)の端に併設する形を取れば、比較的少ない
用地負担で設備を置くことができるだろう。
○搬入出手順
海峡線ダイヤ考察(ver.TOT)の方で順序立てて
記しておくので、全体像についてはそちらを参照の事。
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●基準運転時分
関東方で分岐点から下り方400mは水平、以降10‰勾配によって取り付けられたアプローチ線と本線とが
高崎下り方0.8km地点で合流し、標準軌で高崎操車場まで連絡線を設ける理想的な配線ができたものと仮定した。
新潟方では新潟新幹線車両センターと新潟貨物ターミナルが隣り合っていることから、連絡線を設けて貨物
ターミナルに接続することを想定。
最高速度は本線上210km/h、高崎操車場〜新在分岐点及び新潟〜新潟貨物ターミナル間で70km/h。計算上運転速度の
上限は制限速度-5km/h及びATC頭打ち速度-5km/hとする。
曲線通過速度の算定には、コキ100系列の本則+5kmより3.7√Rを使用した。
高崎(操) からの 実キロ |
駅間 キロ |
駅 名 |
駅間 最高 速度 |
基準時分 |
停車駅間 所要時分 |
停車駅間 平均速度 |
下り |
上り |
下り |
上り |
下り |
上り |
0.0
3.3
44.3
76.6
106.2
139.0
162.6
194.7
199.7
|
3.3
41.0
32.3
29.6
32.8
23.6
32.1
5.0
|
高 崎(操)
新在分岐点
上 毛 高原
越 後 湯沢
浦 佐
長 岡
燕 三 条
新 潟
新 潟(タ)
|
70
210
↓
↓
↓
↓
210
70
|
5'00
15'15
11'15
8'45
9'45
7'00
11'15
6'15
|
5'15
14'15
11'00
10'45
10'15
7'00
11'45
6'30
|
┐
|
|
1:14'30
|
|
|
┘
|
┐
|
|
1:16'45
|
|
|
┘
|
┐
|
|
160.8
|
|
|
┘
|
┐
|
|
156.1
|
|
|
┘
|
どうも、高崎〜新潟間無停車であれば主要上り勾配均衡170km/h台、最高210km/hでも十分なようである。0系を
やや下回る程度の加速性能だが、ダイヤを引いてみた所超高速列車が走らない線区で貨物用途に限定すれば
問題ないことを確認できた。
参考までに中山トンネル内急曲線の曲線通過速度は135km/h、長岡付近では180km/hである。
|
●運行ダイヤ
基本的に途中駅無停車なので基本パターンは一通りのみで、都合上新潟運転停車の列車が少々ある程度。
以下はあくまで例示であり、貨物輸送の性質上実際の時刻は需要に大きく左右される。
○標準軌上
列車番号 |
855C |
列車番号 |
854C |
高 崎(操)
新在分岐点
上 毛 高原
越 後 湯沢
浦 佐
長 岡
燕 三 条
新 潟
新 潟(タ)
|
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
112730
|
101300
101800
103315
104430
105315
110300
111000
112115
===
|
新 潟(タ)
新 潟
燕 三 条
長 岡
浦 佐
越 後 湯沢
上 毛 高原
新在分岐点
高 崎(操)
|
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
111400
|
95700
100345
101530
102230
103245
104330
105430
110845
===
|
高崎(操) 〜新潟(タ)
|
所要
|
1:14'30
|
|
1:17'00
|
表定
|
160.8km/h
|
155.6km/h
|
○新在直通例
列車番号 |
3091 |
4091 |
3073 〜3072 |
3099 |
2091 |
2085 |
現行 2091 |
現行 2071〜70 |
現行 3057 |
東 京(タ)発
隅 田 川〃
新 鶴 見〃
新 座(タ)〃
大 宮(操)〃
高 崎(操)着
|
830
||
905
945
1005
1120
|
|
1756
||
||
1831
2007
|
1430
||
||
1505
1620
|
1735
||
1815
1925
1950
2120
|
横浜羽沢
||
225
340
405
520
|
1455
||
1537
1702
1728
1908
|
2136
||
||
2206
2318
|
1649
||
||
1720
||
|
高 崎(操)発
新 潟(タ)着
|
1143
1257
|
|
2043
2157
|
1643
1757
|
2143
2257
|
613
727
|
2036
049
|
2338
||
|
||
||
|
新 潟(タ)発
金 沢(タ)着
秋田 貨 物〃
東 青 森〃
青 森(信)〃
五 稜 郭〃
札 幌(タ)〃
|
1410
||
1920
==
|
1639
||
2237
||
235
538
1129
|
2225
335
==
|
1825
||
2335
||
320
630
1145
|
010
||
520
==
|
850
||
1400
==
|
214
||
720
==
|
||
700
===
|
||
||
||
241
250
524
1002
|
南関東〜新潟
|
4:27
|
|
|
|
3:32
|
3:47
|
7:47
|
|
|
南関東〜金沢
|
|
|
9:39
|
|
|
|
|
9:24
|
|
南関東〜秋田
|
10:40
|
|
|
|
9:30
|
10:20
|
14:18
|
|
|
南関東〜五稜郭
|
|
|
|
|
|
|
|
|
12:35
|
南関東〜札幌
|
|
|
|
21:15
|
|
|
|
|
17:13
|
関東対新潟・東北日本海側に於いて著しい時短効果が見込まれる。単純な地方間輸送のみならず、関東と
新潟港との間の輸送でも相当の効果が期待できる。
一方対南長岡以南の場合、新潟貨物ターミナル〜南長岡間の所要時間の為に時短効果は無いに等しい。
また対北海道では、流石に走行距離の差によって直行であっても東北本線周りよりも所要時分が
長くなってしまうので(3099列車参照)、新幹線経由であっても関東発の貨物がこのルートに集中する
心配までは必要ない様である。
想定に利用した時刻のダイヤグラムは次の通り。
|
高崎付近の約2kmで下り北陸新幹線列車と干渉しないように注意すれば、後は大抵の所に
入れることができる。最高速度と加減速性能では旅客列車に劣るものの、新幹線内無停車であれば
旅客列車を上回る表定速度となり平行ダイヤは軽々と引けるので、概ね自由自在な設定が可能となる。
|
●総括
旅客列車のみでは宝の持ち腐れなので、試しに考えてみた所そこそこの効果が確認できた。上越新幹線
ですらこれだけの効果が生じるのだから、東北・北海道方面で行えば更に芳しい結果を得られるのでは
ないだろうか。
新幹線上での列車運行をJR東日本とJR貨物のどちらが行うのか、線路使用料等はどうなるのかといった
問題はあるものの、区間と規模とを十分に検討すれば十分通用する考え方だろう。
上越新幹線については、これでも効果は良く解ると思われるので以上の一例のみに止めておく。
|
念の為記しておきますが、以上は既設設備等一部の例外を除いて全て公表された計画等を下敷きと
しつつも独自に試算したものです。あくまで一個人の試案ですので、検索等で来られた方は誤解の
無き様。
なお、引用は幾らでも御自由にどうぞ。
○履歴
立案:2006/4/27
着手:4/30
基準所要時分:5/7
WinDIA打ち込み:8/3
運行例:8/25
ToT関連:11/27
全体調整・公開:12/31
参考資料:○ルート・線路条件等
世界の高速鉄道(佐藤芳彦、1998年)、新幹線
テクノロジー(同、2004年)、
新幹線はもっと速くできる(川島令三、1999年)、
日本鉄道名所2東北線・奥羽線・羽越線(小学館発行、1986年)、
北陸新幹線関連広報・報道、JR時刻表、Mapion、鉄道ファン2000年3月号、
2万5千分の1地形図高崎、下室田、伊香保、水上、土樽、越後湯沢、十日町
(以上7点国土地理院、2002年)、前橋、金井、上野
中山(以上3点同、1997年)、
茂倉岳(同、1993年)、猿ヶ京、五日町、小出、長
岡(以上4点同、2003年)、
塩沢(同、2001年)、小平尾、小平谷、片
貝(以上3点同、2006年)
○現状ダイヤ資料
2006JR貨物時刻表、JR時刻表2006年3月号及び8月号並びに過去数年分、
2006年3月改正版上越・長野新幹線時刻表(JR東日本無料配布)
○車輌資料
特開2005-262914(JP,A)「貨物列車及び列車搬入搬出方法」(出願人:JR北海道)、
自筆ノート、世界の高速鉄道(佐藤芳彦、1998年)、新幹線
テクノロジー(同、2004年)、
インバータ電車制御概論(飯田秀樹・加我敦、2003年)、
新幹線はもっと速くできる(川島令三、1999年)、
鉄道ジャーナル97年6月号及び99年7月号、鉄道ダイヤ情報95年5月号、
北海道新幹線想定ダイヤ及び北陸新幹線想定ダイヤ(拙著)、etc.
(以上敬称略)
(C)2006 far-away(◆farawagyp.)
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