四国横断新幹線の北端だけでは非効率に
過ぎるので、それに併せた松山・高知それぞれへの高速化について現状の延長線上にある
在来線改良とスーパー特急(もどき)化の2通り、計4通りについて試算してみました。あくまで
現状ありきなので線形の悪い区間も残りますが、時短効果の大きい区間に集中して改良するように
心掛けた案なので、効率は然程悪くないかと思います。 なお、ここで扱うのはあくまで大阪から遠い愛媛・高知を主眼に置いた高速化であって、国土軸の 形成が主な役割となる紀淡海峡トンネル及び豊予海峡トンネルを絡めたものではありません。 対東京を考慮しない限り航空・高速バス対抗としては部分的なスーパー特急化程度で十分であるとの 結果が出たので、フル規格新幹線については省略しました。そもそも、輸送力の逼迫していない 区間に於いて全区間に渡って完全別線を建設する必要性は如何ばかりのものでしょうか。 |
○予讃線改良 ●ルート ●車輌 ●所要時分 ●建設予算 ○土讃線改良 ●ルート ●車輌 ●所要時分 ●建設予算 ○予讃線スーパー特急 ●ルート ●車輌 ●所要時分 ●建設予算 ○土讃線スーパー特急 ●ルート ●車輌 ●所要時分 ●建設予算 ●比較 ●総括 |
●車輌 以前のフリーゲージトレイン考察に於けるEMU6連を以って代える。 |
●建設予算 さて、建設費を概算してみよう(表中単位:億円)。
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○土讃線改良 ●ルート 予讃線と同じ方針で所要時分の短縮を図る。また、他の改良工事に併せて直流電化も施行する。 工事箇所は線形改良が豊永〜土佐穴内間2.5km(大田口移転を含む)。短絡線建設が塩入〜坪尻 間4.5km、坪尻〜阿波池田間2.5km(吉野川渡河)、三縄〜小歩危間8.0km、土佐北川〜土佐山田 間10.0kmの計25.0km。路線長短縮は17.7km。坪尻〜阿波池田間及び土佐北川〜土佐山田間では 短絡線の全区間が25‰勾配となるが、他については10‰以下に抑えられる。 また、これら区間は全て単線である。 |
●車輌 以前のフリーゲージトレイン考察に於けるEMU4連を以って代える。 |
●所要時分 最高速度は現行通り120km/hとする。但し、宇多津以北については先の四国横断新幹線に 準ずる。停車時分は多度津及び土佐山田1分0秒、他30秒。また岡山以東での併結運転を想定 して、岡山にて増解結相当の3分を加える。 標準停車駅は岡山、宇多津、丸亀、多度津、善通寺、琴平、阿波池田、大歩危、土佐 山田、後免、高知。 速達列車停車駅は岡山、丸亀、多度津、阿波池田、土佐山田、高知。 所要時分は下り列車各条件最短の数値であり、実際には交換等により5分前後の増加が 見込まれ、加えて上り列車では山岳区間に於いて走行時分そのものにある程度の変動が生じる。 また現行設備ではGCTの乗り入れは不可能な為、改良前の比較数値は現行のものとする。
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●建設予算 概算してみると…(表中単位:億円)。
もし短期で済ませようと図って工期約5年、3〜400億円/年となると、これは最早国家財政からある 程度の建設予算の出動を待つか、或いは新幹線財源等の適用を得るしかない。現実には、利用客が多いが 効果の小さい予讃線と利用客が少ないながらも効果の大きい土讃線のどちらか一方を先に改良する ことになるのだろうが、さてどちらが妥当だろうか。 |
○予讃線スーパー特急 ●ルート 随所に短絡新線を建設しながらも、工費を抑制する為に使える所で在来線も活用する。 まず当然ながら今治には涙を飲んでもらい、伊予小松下り方0.9km(以下小松(信)とする)から 松山まで32.9kmの高速新線を建設する。これは建設費抑制と北越急行で発生した問題の回避との 両立を図り在来線複線断面トンネルとして計算した。またこれに伴い、伊予小松〜伊予小松 下り方0.9km間は複線化して在来線との分岐点を130km/hで抜けられる配線とする。 次に、海岸寺上り方1.2kmから比地大上り方1.0kmまで9.1km、豊浜下り方2.2kmから2.8kmまで25‰勾配で 高度を稼いだ後に川之江上り方1.1kmまで5.6km、そして伊予土居下り方0.6kmから多喜浜 上り方0.4kmまで8.1kmのそれぞれ単線の高速新線を建設する。 これら区間は、松山市街地を除いて、何れも地質等の問題が特に困難でなければR1500m以上の 線形を確保できるルートである。特に伊予小松〜松山間については松山方2.7kmを除きR2500m以上となる。 |
●車輌 以前のフリーゲージトレイン考察に於けるEMU6連を以って代える。 |
●所要時分 最高速度は基本が現行通り130km/h、高速新線建設区間については狭軌での高速安定性を 考慮してひとまず160km/hとしておく。宇多津以北については先の例の通り。 停車時分は多度津1分0秒、他30秒。 停車駅は岡山、丸亀、多度津、観音寺、伊予三島、新居浜、松山。但し宇多津、川之 江、伊予西条には通過停車が可能である。 所要時分は各条件最短の数値である。多度津〜伊予小松間の単線区間に47分を取られる ことにより1時間ヘッドでは単線区間に於ける交換が不可避であるから、実際には交換等に より停車駅を増やさずとも最大5分程度の増加が見込まれる。 また、改良前の数値は先の四国横断新幹線(宇多津以北)のものとする。
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●建設予算 在来線規格で部分的にとはいえ、本格的に高速線を敷設する以上流石に安くはない(表中単位:億円)。
松山市内の移転買収費については、複線用地9mに側道を加えた16m幅で2005年地価公示を 参考に求めた値を、更に移転保障費その他を見込んで2.5倍した数字を用いた。 |
○土讃線スーパー特急 ●ルート 急曲線急勾配によって分水嶺を越える区間随所に短絡新線を建設しながらも、工費を抑制する 為に使える所で在来線も活用する。 阿讃間新線は琴平下り方2.1kmから分岐して単線で弓なりに分水嶺を貫き、阿波池田上り方2.0kmで 在来線を乗り越してから並行して15‰勾配で高度を下げ、阿波池田上り方1.5kmで在来線に合流 する。乗り越すまで18.5km、アプローチ部0.5km。 阿土間新線については大歩危下り方4.8km、大歩危トンネル南坑口すぐの地点(以下有瀬(信)とする)から 土佐山田上り方1.4km(以下楠目(信)とする)までを、在来線断面複線で急曲線を用いずに可能な限り 短い距離で駆け下りる計25.3kmとする。因みにこちらが擁する3トンネルの内2本は約3kmと然程でも ないが、最も下り方に位置するものは実に18.1kmもの長大トンネルとなってしまう。しかし、トンネルを 短くするために下手に迂回するよりも、長大トンネルで一気に抜けた方が路線延長のみならず 新設トンネル延長も短くでき、更に勾配も抑制できるためかえって経済的であると判断 した。ボーリング等行わなければ深い地層の地質がはっきり判らない点ではどのルートも同じで あるし、このルートであればトンネル内勾配は10‰に抑えられる(両坑口間高低差140m、拝み勾配 上り方2km下り方16kmで防排水も支障無い)。またこれに伴い、大歩危〜有瀬(信)間4.8kmについて 路盤を130km/h対応に改良する(大歩危トンネル内の最小曲線半径は800mである)と共に、楠目(信)〜土佐 山田間1.4kmを複線化する。こちらはR600mの曲線があるので120km/h対応で十分である。 さてもう一つ、先の例で述べた三縄〜小歩危間8.0kmについても利用するので説明を加えて おく。三縄下り方1.0km〜小歩危上り方0.6km間に同様に8.0kmの短絡線を建設、但し前述の在来線 改良例とは異なり、こちらも160km/h対応で計算する。 これら区間は、何れも地質に問題がなければR1500m以上、特に阿土間の有瀬(信)〜楠目(信)に ついてはR2500m以上となる。参考までにR2500mであれば標準軌カント200mmで頭打ち260km/h、同 車体傾斜2度では280km/hまで持って行けるので、財政の著しい好転等あればミニ新幹線車輌の 高速走行も可能である。 |
●車輌 以前のフリーゲージトレイン考察に於けるEMU4連を以って代える。 |
●所要時分 最高速度は基本が現行通り120km/h、大歩危トンネル内は130km/h、高速新線建設区間に ついては予讃線の例に同じく160km/hとする。宇多津以北については先の例の通り。 停車時分は多度津及び土佐山田1分0秒、他30秒。また岡山以東での併結運転を想定 して、岡山にて増解結相当の3分を加える。 標準停車駅は岡山、宇多津、丸亀、多度津、善通寺、琴平、阿波池田、大歩危、土佐 山田、後免、高知。 速達列車停車駅は岡山、丸亀、多度津、阿波池田、土佐山田、高知。 なお、大杉停車は不可能となる。 所要時分は各条件最短の数値である。多度津〜大歩危間(正確には分岐点まで)の単線 区間に多度津〜土佐山田間で阿波池田のみ停車の列車でも34分を取られることによって1時間 ヘッドでは単線区間に於ける交換が不可避であるから、実際には停車駅を増やさずとも 最大5分程度の増加が見込まれる。加えて上り列車では、山岳区間に於いて走行時分 そのものにある程度の変動が生じる。 現行設備ではGCTの乗り入れは不可能な為、改良前の比較数値は現行のものとする。
一方、並行区間に於いては在来路線の維持がほぼ不可能になる。山岳区間の 普通利用者をどう救済するか(大赤字覚悟若しくは観光に一縷の望みを託して 三セク化するか、または現行の本数に鑑みてバス転換か)が新線建設費の地元負担と 合わせて、他の基本計画線沿線に増して難題となるだろう。 |
●建設予算 1時間近い所要時分減を図れる割には安価に済ませられそうである(表中単位:億円)。
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●比較 数字を一通り纏めておこう。 |
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※1:直通でない場合は高松〜多度津間24分、多度津での乗り継ぎ時分は3分とする。 ※2:現行以外の東京〜新大阪間2時間30分、新大阪での乗り継ぎ時分は5分とする。 ※3:標準的な乗り継ぎダイヤを参考にした。 ※4:土讃線非電化(GCT乗り入れ不可)の場合。 ※5:始終着間ではなく中心地間。東京については「山手線各駅または繁華街周辺」。 ※6:夏季非繁忙期のANA/JAL時刻表を 用いて、空港アクセスは公共交通機関限定で計算。機内預け荷物は 考慮しない。空港到着の時刻は羽田45分前、他30分前とする。定時 前提。 (羽田は混雑時の保安検査待ちだけでなく動線そのものが異様に 長いので。…1タミ沖止めなんか何百m歩かされることか) |
●総括 この様に、決して安くはないが整備新幹線各線に比べればかなり抑えられた建設費 で、ひとまず当面は十分であろう程度の所要時分にできそうだと示すことができた。建設費は あくまで過去の例を参考にした概算であって高騰する可能性があるし、GCTが狭軌直流区間 でも160km/hを軽々と出せる性能を持つか、特に土讃線でそれに耐え得る給電設備を 整備できるか(因みに計算の運転曲線に載せるためには4連で2800kW程度は必要)等という 問題はあるが、建設費が試算の倍近くになって漸く兆に届くこと、GCTは少なくとも それ自体の耐久性が証明されつつあることから、松山及び高知までについては計画を十分に 練れば実現性はあると言ってしまって良い区間なのだろう。 輸送力については、特急1本/時のフリークエンシーがある線区なので決して軽視 できない。最低限倍近い定員を確保できる編成長か2本/時の運行を可能とする設備に しなければ、繁忙期の大混雑は必定だろう。並行する定期高速バスが2〜3本/時ある区間で あり、それ相応の潜在需要は存在する筈である。 もしも在来線を流用せずに、これをフル規格新幹線で建設したら費用が1兆を超えることは 想像に難くない。2020年代辺りだろうか、基幹となるべき大幹線の建設が終わった後は、各地で 枝葉となる幹線・亜幹線の高速化が行われる筈である。その時には、状況に照らして必要十分 ならば将来更なる高速化を行う際に無駄設備とならないだろう程度のものに留めて、必要以上の 出費は避けるべきではないだろうか。 また、対京阪神及び岡山については前述の通り十分な競争力を得るが、一方でスーパー特急化 してもなお対高松ではやや弱い。これを解決する為には160km/hを軽々と出せる狭軌DC1500V特急車を 新造した上で高松〜坂出間適宜区間に高速新線を加える必要があるが、これで短縮できるのは せいぜい10分。車輌側は8000系のMT比を2:1にすれば済む程度のことなのでそう大した ものでもないだろうが、問題は地上設備である。果たして、この10分は数百億を追加投資 するほどの意味があることなのだろうか? ともあれ、部分的な高速新線の建設でもこだまクラスの「特急」は実現するわけで あるし、それによって競合交通機関の相当量乗客を奪えるのである(場合によっては対伊丹の 航空路線を潰せる)。 十分、検討に値する路線だろう。 ○履歴 立案:2005/5/28 着手・予讃線土讃線改良詳細:5/31 予讃線改良基準所要時分:6/1 土讃線改良基準所要時分:6/8 予讃線スーパー特急化ルート案:6/11 予讃線スーパー特急所要時分:6/12 土讃線スーパー特急化ルート案:6/13 土讃線スーパー特急所要時分:6/15 完成・公開:6/16 参考資料:○地形条件・現状建造物状況 25000分の1地形図讃岐粟島、仁尾、観音寺、讃岐豊浜、川之江、伊予三島、東予土居、 新居浜、西条北部、西条、伊予小松、東三方ヶ森、松山北部、善通寺、福良見、 阿波池田、阿波川口、大歩危、東土居、杉、奈呂、繁藤、土佐山田 (以上23点国土地理院、1995〜2005年)、日本地図帳(昭文社、1983年)、Mapion ○現状ダイヤ・路線資料・比較資料 JR時刻表、Mapion、ANA時刻表、JAL時刻表、 日本鉄道名所7山陰線・山陽線・予讃線(小学館、1987年)、 ○車輌資料 自筆ノート、新幹線はもっと速くできる(川島令三、1999年)、 鉄道ジャーナル93年6月号 (以上敬称略) (C)2005 far-away(◆farawagyp.)
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